大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋地方裁判所 昭和49年(行ウ)19号 判決

原告 伊藤智子

被告 愛知県知事

訴訟代理人 岸本隆男 服部一磨 ほか五名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

(原告)

被告が昭和四八年一一月一九日原告に対して別紙目録〈省略〉記載の土地につきなした都市計画法第二九条に基づく開発行為を許可しないとした処分を取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

(被告)

主文同旨。

第二当事者の主張

(請求の原因)

一  原告は昭和四七年五月二九日被告に対し、都市計画法二九条にもとづき、別紙目録〈省略〉記載の土地(以下、本件土地という)でドライブイン等の沿道サービス施設の建設を目的とする開発行為(以下、本件開発行為という)の許可申請をなした。

二  しかるに、被告は原告に対し、昭和四八年一一月一九日付をもつて右申請の不許可処分(以下、本件不許可処分という)をなした。

三  しかし、原告申請の本件開発行為はドライブイン等の沿道サービス施設で適切な位置に建設されるものであるから、都市計画法三四条一〇号ロに該当するものである。従つてこれに該当しないとしてなした本件不許可処分は違法である。

四  また、原告が本件許可申請をなした前と後に、本件土地の東方約二〇〇メートルの地点において、同じく沿道サービス施設である飲食店「すみれ」および「ますや」の各開発行為が許可され、開業している。被告は原告の申請のみを許可しない合理的理由がないのにかかわらず、これを不許可としたものであり、本件不許可処分は平等原則に反し、違法である。

(請求原因に対する認否)

一  請求原因第一項のうち、原告の申請年月日を争い、その余は認める。本件申請の受理年月日は昭和四八年一〇月一七日である。

二  同第二項は認める。

三  同第三項は争う。

四  同第四項のうち、本件申請の前後に本件土地の東側約二〇〇メートルの地点で喫茶店「すみれ」および飲食店「ますや」が開業したことは認めるが、その余は争う。

(被告の主張)

一  本件開発行為は原告より都市計画法三四条一〇号ロに該当するとして申請されたものであるが、以下述べるように、それは同条項に該当しないものである。

1 本件土地は都市計画法上の市街化区域に隣接する市街化調整区域内の土地である。すなわち、本件土地の北側は国道一号線を隔てて住居地域、西側は工業地域であり、本件土地とその南側および東側は市街化調整区域である。そしてまた西側一・四キロメートルの地点は住居地域となつていて、その地域内には本件申請当時既に沿道サービス類似の施設が数軒存在していた。

2 都市計画法は無秩序な市街化を防止し、計画的な市街化を図るため、都市計画区域を市街化区域と市街化調整区域とに区分しており、市街化調整区域は市街化を抑制すべき区域であり、そこでの開発行為は例外的にしか認められないものである。すなわち、開発行為をしようとする者は都道府県知事の許可を受けなければならないが、市街化調整区域に係る開発行為については、それが都市計画法三三条に定める要件に該当するほか、同法三四条各号の一に該当すると認める場合でなければ、都道府県知事は開発許可をしてはならない旨規定されている。

3 そして、都市計画法三四条一〇号ロに規定する「開発区域の周辺における市街化を促進するおそれがないと認められ、かつ、市街化区域内において行うことが困難又は著しく不適当と認められるもの」の認定についての実際上の運用は、昭和四四年一二月四日付建設省通達に沿つてなされており、同通達中には、「第一〇号ロについて、第一号から第一〇号イまでに該当しない開発行為について、個別的にその目的、規模、位置等を検討し、周辺の市街化を促進するおそれがなく、かつ、市街化区域内で行なうことが困難又は著しく不適当であると認めるものについては許可することとなるが、通常原則として許可してさしつかえないものと考えられるものとして、次のような建築物の用に供する開発行為がある………ハ ドライブイン等の沿道サービス施設で、適切な位置に建設されるもの」との定めがあり、さらに右通達にもとづいて定められた愛知県開発審査会の開発審査会提案基準中には、市街化調整区域内におけるドライブイン等の沿道サービス施設に係る法三四条一〇号ロの運用基準として、「市街化区域………から原則として一Km以上離れた位置であること」と規定されている。

4 被告は右基準に沿つて開発行為許否の判断をなしているものであるが、本件開発行為は、右基準との関係からみても明らかなように、前記工業地域(市街化区域)から一キロメートル以内にあつて、到底当該施設が適切な位置に建設されるものとは認められず、従つて都市計画法三四条一〇号ロに該当しないものである。

二  本件不許可処分は、何ら平等原則に違反するものではない。

1 本件土地の東方に所在する喫茶店「すみれ」および飲食店「ますや」の各店舗は、いずれもその周辺地域である東方の市街化調整区域に居住している者の日常生活のため必要な建築物と認められたので、都市計画法三四条一号該当として、前者については昭和四六年八月一九日同法二九条にもとづく開発行為の許可、後者については昭和四八年八月二九日同法四三条一項にもとづく建築物新築の許可の各処分をそれぞれなしたものである。

2 従つて、都市計画法三四条一号該当としてなされた右各店舗についての開発行為等の許可処分は同条一〇号ロ該当の有無のみが問題となる本件開発行為の不許可処分と比較の対象となりえないものであるから、平等原則違反の原告の主張は失当である。

(被告の主張に対する原告の反論)

一1  本件開発行為は、ドライブイン等の沿道サービス施設の建設を目的とするもので、開発区域の周辺における市街化を促進するおそれがないと認められるものであり、かつ、原告は市街化区域において所有地ないし賃借不動産を有しない等の理由から、市街化区域内において沿道サービスをなすことが困難又は不適当と認められるものである。

2  被告主張の如く、市街化区域より一キロメートル以内において開発行為が許可されないものとすると、本件の様に道路の一方の側が市街化調整区域であり、その反対側が市街化区域である場合、道路の一方の側には沿道サービス施設は建築できないことになる。しかし、沿道サービス施設は、交通事故および交通渋滞防止の上からも、道路の両側に存することが実情であるし、また存しなければならない。本件においては、国道一号線をはさんで本件土地は市街化調整区域に属し、その北側は市街化区域であるから、西行き車輛が右国道を横切つてする右折は運転者等の生命、身体等に甚しい危険を発生させ、その他西行き東行き車輛の交通渋滞の原因となる。従つて、本件土地に沿道サービス施設の設置を認めないことは不合理である。

3  また被告主張の建設省通達においても、都市計画法三四条一〇号ロの許可すべきものとして「ガソリンスタンド」等を挙示している。ともに沿道サービスとしてのドライブインとガソリンスタンド等との間に許否の結論を異にすべき要素は存しないのに、被告の主張に従えばガソリンスタンドは建設できるのにドライブインは建設できないという異なつた結論となり不合理である。

よつて、本件申請の如き沿道サービス施設であれば、都市計画法三四条一〇号ロ該当として許可されるべきである。

4  なお、被告は本件土地がその西側の工業地域より一キロメートル以上離れていない旨主張するが、右工業地域には区域一杯に工場が建設されており、同地域内に沿道サービス施設を建設することは「困難又は著しく不適当」であるといわなければならない。

二  本件土地の東方にある飲食店「すみれ」および「ますや」は国道一号線と沿道関係にあり、周辺地域の居住者たる部落等からは離れた位置にある。また、その施設は広い駐車場を備え、ドライパー等の顧客を対象とするデラツクスなものであり、その販売食品の種類、価格等からみても、沿道サービス施設であることは明白である。さらに、被告は右「すみれ」「ますや」の直ぐ南の位置に宿泊施設の、また本件土地と「すみれ」「ますや」との間に住居・石置場の各開発行為を許可している。右各施設の開発行為が許可された地点は、いずれも被告主張の市街化区域(工業区域)より一キロメートル以内にあるものである。すなわち、被告は、右地点における開発行為は「開発区域の周辺における市街化を促進するおそれがないと認める」としているのである。従つて、原告申請の開発行為のみを不許可とした本件不許可処分は、平等原則にも反し、違法である。

第三証拠〈省略〉

理由

一  原告が被告に対し都市計画法二九条にもとづき本件開発行為の許可申請をなしたところ、被告が昭和四八年一一月一九日付で本件不許可処分をなしたこと、本件開発行為の許可申請は本件土地でドライブイン等の沿道サービス施設の建設を目的とするもので、都市計画法三四条一〇号ロに該当するとして申請されたものであること、本件土地が国道一号線に面した南側にあり、市街化調整区域内の土地であることは、当事者間に争いがない。

二  被告は、本件開発行為は都市計画法三四条一〇号ロに該当しないので不許可にした旨主張するので、以下判断する。

1  都市計画法は、無秩序な市街化を防止し、計画的な市街化を図るため、都市計画区域を市街化区域と市街化調整区域とに区分し(同法七条一項)、開発行為をなすには都道府県知事の開発許可を受けなければならない(同法二九条)としている。そして、市街化調整区域は市街化を抑制すべき区域である(同法七条三項)から、そこでの開発行為は厳格に規制され、市街化を抑制するための特別の基準に該当する例外的な場合にしか開発が認められないものである。すなわち、市街化調整区域に係る開発行為については、都市計画法三三条に定める一般的要件をみたすほか、それが同法三四条各号の一に該当すると認める場合でなければ、都者府県知事は開発許可をしてはならないのである(同法三四条)。

都市計画法三四条一〇号は開発許可が受けられる場合の一つとして、「前各号に掲げるもののほか、次のいずれかに該当する開発行為で、都道府県知事があらかじめ開発審査会の議を経たもの」と規定し、同号ロで「開発区域の周辺における市街化を促進するおそれがないと認められ、かつ、市街化区域内において行なうことが困難又は著しく不適当と認められるもの」と規定している。

2  そこで、本件開発行為が右都市計画法三四条一〇号ロに該当するか否かを検討するに、〈証拠省略〉によれば、右三四条一〇号ロ該当の有無の認定についての実際上の運用は、昭和四四年一二月四日付建設省通達に沿つてなされており、同通達中には「(6)第一〇号ロについて。第一号から第一〇号イまでに該当しない開発行為について、個別的にその目的、規模、位置等を検討し、周辺の市街化を促進するおそれがなく、かつ、市街化区域内で行なうことが困難又は著しく不適当であると認めるものについては、許可することとなるが、通常原則として許可してさしつかえないものと考えられるものとして、次のような建築物の用に供する開発行為がある。………ハ、ドライブイン等の沿道サービス施設で、適切な位置に建設されるもの」との定めがあり、さらに右通達にもとづいて定められた愛知県開発審査会の開発審査会提案基準中には、市街化調整区域内におけるドライブイン等の沿道サービス施設に係る都市計画法三四条一〇号ロの運用基準として、「1、市街化区域(住居地域またはその他の区域で建築することが困難なものを除く)から原則として一Km以上離れた位置であること」と規定されており、またガソリンスタンド等についても右同様の運用基準をもうけていること、被告は本件開発行為が右基準に照らし適切な位置に建設されるものとは認められず、従つて都市計画法三四条一〇号ロに該当しないものとして本件不許可処分をなしたものであることが認められる。

3  案ずるに、都市計画法三四条一〇号ロにいう「開発区域の周辺における市街化を促進するおそれがないと認められ、かつ、市街化区域において行なうことが困難又は著しく不適当と認められるもの」に該当するか否かの判断基準の一つとして、前記建設省通達にもあるように、それが「適切な位置」に建設されるものであることが必要なことは当然であるといつてよい。そして、ドライブイン等の沿道サービス施設の設置が「適切な位置」であるかどうかは、市街化区域からの距離が最も重要な基準として考えられるべきものである。けだし、ドライブイン等の沿道サービス施設はその性質上市街化区域内のみでの立地が困難または不適当であつて市街化調整区域内での立地の必要性があると解せられるところ、開発場所が市街化区域に近ければ近い程市街化調整区域内に建設すべき客観的必要性が少ないと考えられるし、また反面、開発場所が市街化区域から遠く離れていればいる程周辺の市街化を促進するおそれがないということができるのであつて、その開発場所が市街化区域に極めて近い市街化調整区域内であることは、「市街化を促進する区域」として市街化区域を、「市街化を抑制すべき区域」として市街化調整区域を定めた趣旨に反することになるからである。従つて、前記愛知県開発審査会の開発審査会提案基準に、市街化調整区域内におけるドライブイン等の沿道サービス施設に係る都市計画法三四条一〇号ロの運用基準として「市街化区域から原則として一Km以上離れた位置であること」と規定しているのは、その「一Km」が最も妥当か否かは別として、合理性を有するものであるということができる。なお、「市街化区域において行なうことが困難又は著しく不適当と認められるもの」とは、客観的にみて、その用途等より市街化調整区域内に存することが相当なため、市街化区域において行なうことが困難又は著しく不適当と認められるものというのであつて、原告のいう「市街化区域において所有地ないし賃借不動産を有しない」とか、市街化区域において既に家が建つていて空地が取得しにくいといつた個人的事情は含まれないと解すべきである。

4  しかるところ、〈証拠省略〉によれば、本件土地は西側に隣接して工業地域(市街化区域)が存し、国道一号線(中央分離帯がない)を隔てて北西側および西方約一・四キロメートルの地点にいずれも住居地域があり、本件不許可処分当時、既にこれらの地域内には沿道サービス類似の施設が数軒存在していたことが認められる。

そうとすれば、本件開発行為をなす場所は、市街化調整区域内にあつて、市街化区域から一キロメートル以上離れていない至近距離にあるから、ドライブイン等の設置場所として開発許可をなすべき「適切な位置」にあるとは認め難いものである。

5  原告は、本件土地附近の国道一号線を西行する車靹のための沿道サービス施設を右国道の南側に設置する必要があるのに、そこが市街化区域より一キロメートル以内の市街化調整区域であるとの理由により許可しないことは不合理である。現に、本件土地の東方約二〇〇メートルの地点で、市街化区域より一キロメートル以内の所に飲食店「すみれ」「ますや」等が存在し、これらは本件と同様の沿道サービス施設であることが明らかであるのに、被告は原告の本件申請前後にその開発許可をしており、これらとの関係からみて、本件不許可処分は原告にのみ不平等に差別する違法なものであると主張する。

しかしながら、〈証拠省略〉によれば、右飲食店「すみれ」および「ますや」は共に沿道サービス施設としてではなく、周辺住民の日常生活上の利便施設であるとして、都市計画法三四条一号該当として許可されたものであることが認められるのであつて、たとえ右飲食店等が沿道サービス施設として利用に供されている事実があるとしても、同条一〇号ロ該当として申請された本件開発行為と比較するのにかならずしも適さないものである。また、国道一号線を西行する車輛のため、沿道サービス施設を本件土地に設置する必要があるとの点については、前記認定事実の下ではいまだその必要性が認められないうえに、右設置の必要があるというだけでは都市計画法三四条一〇号ロの要件をみたし、原告の本件開発行為申請を許可すべき理由があるとすることもできない。従つて被告が本件開発行為を許可しないことに原告主張の不合理は認められず、またその開発行為許否の判断に平等原則に反する違法があるということもできないものである。

6  結局、本件開発行為は都市計画法三四条一〇号ロに規定する「開発区域の周辺における市街化を促進することがないと認められ、かつ、市街化区域内において行なうことが困難又は著しく不適当と認められるもの」との要件に該当しないものであるから、原告の本件開発許可申請を不許可とした本件処分は適法であり、原告主張の違法は存しないといわなければならない。

三  よつて、原告の本訴請求は理由がないから失当として棄却することにし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 山田義光 窪田季夫 辻川昭)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例